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AやSはP博士の診ていた患者で、遺伝子治療を専門とするA博士との共同研究のなかで、彼女たちに遺伝子治療を行いたいと考えるようになった。 ちなみにP博士は、北大で行われている遺伝子治療の協力者でもある。

さて、遺伝子治療を実際の患者に行う臨床応用に関しては、アメリカの場合にはNIHによる審査と承認が必要である。 なかでも主な審議の場となる「組み換えDNA諮問委員会(RAC)」には、医学の専門家はもちろんだが、法律家や哲学者や宗教家など医学分野以外の専門家や研究者も含まれている。
ヒトの設計図である遺伝子を操作して生命や生活の質を左右する医療だけに、治療技術の効力や安全性など医学的な側面からの検討だけでなく、人間をどこまで変えてよいのかといった倫理面からの検討も必要となる。 加えて、治療という名称がついているものの、いまのところは人体実験であることも間違いないから、「実験に参加する」かたちになる患者をどこまで保護するかについて、社会的な判断も必要になってくる。
このようなことから、さまざまな分野の専門家が集まって審査が進められる。 そして、その審議は公開されているから、一般市民でも傍聴というかたちで承認までの経緯を知ることができるのである。
このような席で、A博士たちが提出したADA欠損症の遺伝子治療の申請内容について、「治療の効果が確認されていない」「安全性に問題が残っている」「それでも進めるには時期が早すぎる」など、医学面からの指摘がまず出された。 続いて問題となったのが、「人の手で人間の遺伝形質を変えてよいのか」という哲学的な疑問で、「神の領域にまで踏み込む行為である」と述べた宗教家もいた。
マスコミのなかには「フランケンシュタインを生む医療技術」という表現さえ使ったところがある。 ヒトの遺伝子に手を加えるのは、フランケンシュタイン男爵が死体から怪物を作りあげた行為に似て、一種の怪物人間を作ろうとしているという考えだ。

これほどおおげさな表現ではなくても、本来、個人がもって生まれてくる遺伝子を、たとえ医療といえども、あれこれ操作することに戸惑いを感じた人も多かったようだ。 「とにかく未経験の治療法だけに、医学関係者のあいだにもさまざまな誤解や無理解があったのは事実です。
そのような人たちにたいして、ADA欠損症は従来の治療では治らない死にいたる 病気であるから、そのリスクにくらべると遺伝子治療は高い確率で成功が期待できるし、長いあいだの基礎研究によって安全性も確かめられた技術であることを説いてまわりました。

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